<以下の文は、福岡大学Research に掲載されたものを一部修正したものです>

アメリカ西海岸サンディエゴ州立大学での1年間
                      
  平成11年8月から1年間、福岡大学の長期在外研究員としてアメリカのサンディエゴ州立大学の心理学部に滞在する機会を頂いた。ホスト教授であったJ. F. Sallis 博士の研究プロジェクトや、生活の中で体験したことついて報告させていただきたい。

 サンディエゴ&SDSUの印象
 サンディエゴは、ロサンゼルスから南下し、車で2時間程度のところに位置する、メキシコ国境近くにある大都市である。日本人にとってはあまりメジャーな都市ではないであろうが、実は人口規模は福岡とほぼ同じで120万人近くが居住し、全米で第7番目になる有数の大都市でもある(住んだ感じではそれほど大きいとは思わないのだが)。さらに海と山に恵まれ、空港に降り立つと、一目で他の都市とは異なる雰囲気を醸し出しているリゾート地でもある。私が滞在したサンディエゴ州立大学(SDSU)は、カリフォルニア州立大学の1つであり、アメリカの中では中規模校(学生数約3万)といったところであろうか。大学の雰囲気は意外とこぢんまりとしており、「なんだ福大とあまり変わらないじゃないか」というのが最初の印象である。とはいえ、いろいろ学内を探索してみるとボーリング場が地下にあったり、立派なフィットネスセンター、バスケットアリーナなどがあり、利用者からの収益も結構挙げていそうであった。ちなみにサンディエゴにはもう一つカリフォルニア州立大学サンディエゴ校(UCSD)があり、こちらは広大な敷地をもち、いかにもアメリカの大規模校の風情を醸し出していた。

 
サリス先生の研究室                                 <研究室スタッフとのハイキングで>

 お世話になったSallis先生は、行動医学分野(特に身体活動の促進)における世界的権威であり、結構頻繁に海外やアメリカ国内の学会・ミーティングにでかけていた。アメリカの一流研究者がどのような教育・研究生活を送っているのか、は1つの興味であった。彼の場合、授業は本来週2,3回あるようだが、外部から取ってくる研究予算の一部を大学に入れることで、ノルマを減らすことが可能で週1回(博士課程学生対象)行えば良いようであった。大学側はその予算で非常勤の講師を雇えるし、彼が研究成果をたくさん上げれば双方にとってメリットになる。福岡大学でもこのようなシステムができるとありがたいのだが・・。彼の研究室は推定すると年間1億円近くの予算で運営されており、20名程度のスタッフを抱えている。しかし、大学の専任は2人の教授だけであり、他は全て大学外の予算で雇われているスタッフたちである。驚いたのは仕事の役割が非常に細分化されており、データ入力者2人、データ測定者2人、データ分析者1人、介入現場指導者5人、栄養学研究者3人、秘書2人(フルタイム)、総合アシスタントの院生2人という構成で、介入研究が実施されていたことである。予算のつく研究期間は3,4年のため、スタッフは次のプロジェクトでもスペシャリストとして採用してもらえるよう、実績を残すことに全力を注いでいた。Sallis 先生は大学で何をしているかというと、研究プロジェクトのアイディアを出し、データ分析の方針をだして、企画書や論文を書くだけである(もちろん、それはそれで質的に大変な仕事なのだが)。彼の一日は、文章を書いているか、電話しているか、打ち合わせをしているか、で占められていた。あれだけ生産性の高い仕事をしているのだから、休み無しに働いているのかと思っていたが、実際は9時半頃大学に来て18時前には帰宅し、自宅ではほとんど仕事をせず、好きな音楽にのめりこんでいるらしい(なんと彼は2枚のCDを出しているアマチュアミュージシャンでもある)。私の滞在中は、中学生を対象にした運動行動と食行動の変容を目的とした大規模な介入研究が終了したところであった。集まった最終データについて、誰がどのように論文化していくか定期的なミーティングが開かれたが、外部から来た私の分析アイディアも快く受け入れてもらえた。そのために私が1つ論文を書かなければいけないようになってしまったが。その他、毎週1回3時間かけて行われる博士課程の授業にも参加させていただいた。ここの院生たちは、100倍近い競争率を勝ち抜いて入ってきただけあって、知識量、考察力、臨床経験どれをとっても非常に素晴らしいものを持っている。おそらく、すぐにでもりっぱな研究者として通用するであろう。

 
食生活
 滞在中、昼食はだいたいスタッフといつも一緒だったが、驚いたのがその質素さである。悪くいえば貧困ともいえる。主任研究員の一人であるMcKenzie先生は、いつもサラダとリンゴ1個だけのような食事だったし、他のスタッフも日本のスーパーでも売っているような、電子レンジで温めるだけの小さなグラタンをいつも食べていた。私はといえば近くのカフェにはハンバーガーしかないので、しかたなく毎日のように買ってきていた。慣れてくるとメキシコ料理のタコスやブリトーも結構いけることがわかったので、食事のバリエーションは増えたのだが。念のためにいっておくと、大学の近くにないだけでサンディエゴでは様々な国の料理が食べられる。日本、韓国、中国、ベトナム、メキシコ、イタリア、ギリシャ、インド料理などの安くて美味しい店がそこそこあり、昼食以外の食事には、ほとんど困らなかった。残念ながら日本食を出すところで、美味しいと思ったところはほとんどなかったが。

 
生活あれこれ
 この滞在は、家族と一緒に行っていたので、子供を通してプリスクール(幼稚園のようなもの)の環境にふれる機会もあった。私の子供は大学の付属施設に通わせた。最初は家庭から離れて園内生活を行うのも初めてであり、しかもいきなり英語環境なので不安であったが、子供の適応力というのは恐ろしいものである。簡単に遊び相手を見つけるし、少しすると私より、はるかにきれいな発音で英語をしゃべり出すのだから。文化の違いを見せつけられたのは、うちの子供と仲のよかった友達が、頻繁に他の友達に暴力をふるう、ということで、その子だけを指導する先生がつけられたことであった。どうやらしばらく指導しても直らないということで、その子はプリスクールから追い出されてしまったようである。もう一つ驚いたのは金網ごしに別のプリスクールがあり、ほとんど同じような年齢の子供たちが、狭くて遊具施設がほとんどないようなところで、遊んでいたことである。そこの子供たちは、いつもたくさん遊ぶ場がある大学付属施設を見つめていた。また、一度子供の迎えで通りがかった時、金網越しに「おじさんキャンディちょうだい」といわれ、何とも返答に困ったこともあった。
 そして、今回の在外研究を通して、今後の研究生活に関わる貴重な人間関係も作り上げることができたように思う。最後に、このような有意義な機会を与えていただいたことに、心から感謝いたします。